「文明化された社会」をこえて ー 土木學のめざすもの

令和4年度土木学会全国大会実行委員会
委員長 三村 衛 
京都大学大学院工学研究科 教授

 令和4年度の土木学会全国大会は、9月14日(水)~16日(金)の3日間、京都市の京都国際会館と京都大学・吉田南キャンパスで開催されます(9月12~13日はオンラインでも開催)。関西支部では前回、土木学会創立100周年の記念大会を大阪大学で開催して以来、8年ぶりの全国大会となります。会場として、14日の講演会を中心とした行事は洛北宝ヶ池の京都国際会館で、15~16日の年次学術講演会は京都大学・吉田南キャンパスで開催する予定です。昨年末には、一旦収束の気配をみせたCovid-19がオミクロン株という変異種で陽性者を増大させている状況ではありますが、3年ぶりに対面型全国大会を目指して準備をいただいているところです。皆さまご承知の通り、コロナ禍によりこの2年間はずっと続けてきた対面型の全国大会は開催されず、オンラインによるPCを介した形での実施を強いられております。ZOOMやTeamsといったオンライン会議ツールの習熟度も増し、現在では学会のイベントの大半がオンラインで開催されることがデフォルトのようになってきております。報告会や講演会、講習会については遠方の会場にアクセスする時間も不要で、その時間のみ視聴すれば中身の濃い話を聞くことができるということで、対面型で行ってきた時よりもかえって参加者が増加し、本部・支部間の垣根を超えて参加いただくことも多くなり、想定していなかったメリットを享受できているという側面があります。一方で、人が集まることによって可能となる参加者同士の意見交換や雑談といった、インフォーマルな交流が途絶されてしまい、その中から生み出される研究やプロジェクトのアイデアの創出の機会が奪われてしまうというデメリットも併せてみておかなければなりません。

 本大会テーマとして、『「文明化された社会」をこえて-土木學のめざすもの』を掲げさせていただきました。現代の社会は、様々な観点から十分に「文明化された社会(civilized society)」であるという中で、土木工学(Civil Engineering)はこの「文明化された社会」の基盤を担ってきたといえましょう。すなわち、都市、治水、利水、食糧生産、交通、物流などの基盤技術の発展と適用により、安全性、利便性、快適性を追求し、生活圏の量的拡大と質的向上を成し遂げてきました。一方、我々は、(1) 気候変動への懸念に基づく価値基準の国際的な変容、(2) 人口クライシス-人口増加による貧困問題、人口減少による地域衰退、(3) コロナ禍による様々なレベルでの社会分断とその克服、(4) AI・情報通信技術による飛躍的な技術革新、などの全人類的課題ともいえる多様な状況に直面しており、これまでの延長線上の取組みではソリューションを得ることが難しくなってきています。我々土木に携わる者に対し、「文明化された社会」を構築してきたこれまでの流れを超え、新しい地平を目指すべく、土木學の発展と社会への貢献が期待されていると認識しています。

 また、こうした問題は国境を越えた世界規模の視点で取り組まなければならない課題であり、国内事情に拘泥した意識を世界標準へと転換することが求められます。上田多門 令和4年度会長の指導の下、グローバルに活躍できる将来を担う若手研究者/技術者育成を土木学会の重要なミッションとして位置付けられ、「海外インフラ展開の変革のあり方検討委員会」からなされた技術者養成とプロジェクト創成についての提言の具現化に関する特別セッションを設け、広く議論を展開することにしております。

 開催地京都は1,000年以上にわたって我が国の都として歴史と伝統を紡いできており、古いものを引き継ぎつつ、進取の気風を大切にして文化と文明を熟成してきた土地柄であります。相集って大いに語らい、京都の文化もご堪能いただく場を整えますので、是非京都にお出でいただき、令和4年度土木学会全国大会・第77回年次学術講演会にご参加いただきますよう心よりお願い申し上げます。